非・女子な写真のススメ。高橋恭司&佐内正史

04.06.2009

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私は、割と仲の良い男友達が多いほうです。
女同士の勝手知ったチャットや突っ込みも楽しいものですが、男友達は、自分がまったく知らない音楽やらアニメやら趣味に夢中になっていて色々教えてくれたり、エ?と思うような発想やアイデアで刺激を与えてくれたり。一緒にいると、異性ならではの「違い」がたくさんあって、自分が気がつかない新しい世界を教えてくれるとても楽しい存在です。

というわけで、本日ご紹介するのは、「女の考えるコトなんか知らねーや!(かもね)」という、なんとも男気な2冊の写真集です。saien_top.JPGarca_top.JPG
1冊は高橋恭司さんの『彩宴』、もう1冊は佐内正史さんの『ARCA』(アーカ)
2冊とも、佐内さんのプライベート・レーベルである「対照」から出版されています。恭司さんも佐内さんも、いわゆる「批評」や「文脈」をとても嫌い、気がつくとそういう言葉の網からスルっと抜け出す、とっても捕まえにくいタイプの写真家です。そのはぐらかしは「写真」に誠実だからこそ。ゆえに、とても魅力的な写真を撮り続けている「生きている」写真家。写真と生き方が一体になっている人たちです。



arca1.JPGarca2.JPG佐内さんが「対照」を立ち上げたのは昨年です。それまでにも木村伊兵衛賞*註1を受賞した『MAP』(2002、1000部限定発売)なんかも佐内事務所の自費出版・販売という形をとっていましたが、「写真」や「本」をめぐるものづくりのやり方、広げ方を1からやり直そう、という決意を持って「対照」という名前でレーベルをスタートさせたそうです。

その決意のままに、色々と悩んだり、試行錯誤をしながら、でも写真を撮り続け、レーベルを設立した1年の間に自身の写真集を4冊も刊行したのは、驚きです。その最新作が、昨年11月に発売された『ARCA』です。

『ARCA』は紅葉とスニーカーの写真集。ポップだけど媚がない、不思議なデザインの表紙をめくると、圧倒的な紅葉と光と影がそこにあります。それは、ただ、ある。という感じ。ただ、紅葉。という感じ。でも、ただ、ちゃんと、ある。「ただちゃんと紅葉」っていうことが凄いことなんだな。隣の家のおばあちゃんとかも「ああ、いいね」っていうコトがそこにはあるような気がするから。そういう風に誰かと一緒にいて「あ、そうだね」ってスっと共感できることだけど、その色彩や光や造形って、複雑で豊かで奥行きがある。だけど、それって「こんな雰囲気」とか「こんな気持ち」とか説明できることじゃない。それを見ること、写真に撮ることで、風景になっていくということ。紅葉の写真を見ていると、目が醒める感じがしてきます。

そして、シューレースをいろんなやり方で結んだ色鮮やかなスニーカーたち。モノへのフェチとかそういう閉じてる世界じゃなくて、たぶんそのときの佐内さんにとっての紅葉と同じで、自分にとって近いモノに「写真」として近づく試みだという気がします。紅葉が大きな風景だとすると、スニーカーは個人的な風景です。でも、このスニーカーの写真は、ただの「モノ」でもないし、「佐内さんという個人を表すモノ」でもない。そう考えてくると、このスニーカーがとても摩訶不思議なモノに見えてきます。ジミヘンが弾いた「星条旗は永遠に」みたいに、聞き覚えがある曲のようだけど、音色やペースを変え、ディストーションをかけ、新しいグルーヴを感じるような。

この本は、490mm×297mmの大きな判型に88ページみっちり展開。いっつも印刷にもとても時間をかけてこだわる佐内さんらしく、プロセス4色プラス各捕色と、とにかくすごい情報量だなあ、と思います。だからって当然写真は単なる「情報」じゃない。書棚に入れて飾るのではなく、もっと手元に置いて、何度も見たり、見るたびに発見があったり。そんな付き合い方ができそう。前作の『trouble in mind』ではボトル締めでしたが、今回は並製本だけど、オリジナルステッカーは佐内さんの手貼り。こんな風に「まとめてみたんだけどどうかなあ?」って、ぼそぼそとしゃべっている開かれた佐内さんがそこにいるような気がする、とてもインティメイトな写真集です。


saien1.JPGsaien2.JPG対する高橋恭司さんは、(ご本人は、そのように括られるのをとてもいやがっていらっしゃるのですが...)、ソフィア・コッポラやHiromixに先立ち、90年代に「ガーリー」というカテゴリーを一般的に鮮烈に認識させる先鞭をつけた方で、当時は「キューティ」や「SWITCH」「エスクワイア」などの雑誌から始まり、ありとあらゆる広告の仕事で売れっ子。非常に注目され・将来を嘱望されていた写真家なのでした。私の周りには、申し合わせたわけじゃないのに『THE MAD BROOM OF LIFE』を持っていて「高橋恭司、イイよ」って心の中で思っている感度の高い友達が周囲にもたくさんいました。ブコウスキー*註2のポートレートやデレク・ジャーマン*註3の庭の写真でも有名です。(ちなみに『THE MAD BROOM OF LIFE』の名前と題字もブコウスキー)

ところが、「世間的」にはその後ほぼ12年の沈黙。といっても、それは写真集をその間出していなかったのと、広告などの商業的な活動をほとんどやらなくなってしまったからで、その間も恭司さんは変わらず写真を撮り続けて生きていたのでした。(そう考えるとメディアの影響ってちょっと変ですね。メディアと接続していないと「いない」ということになるんですから。)その沈黙を破って、今年に入ってから、なんと、リトルモアMatcn & Company、そして「対照」から連続5冊もの写真集リリース!「対照」から、佐内さん以外の写真集を出したのはこれが初めて。そんなことからも、時を越えて恭司さんと佐内さんの写真人生がどこか共鳴したことが伺えます。

満を持して出した写真集は、どれを見ても「「うーん、いいなあ」とうなってしまうモノばかり。改めてその存在を知らしめる素晴らしい出来で、とても驚きました。「これいいでしょ?」と押し付けがましかったり、アイコニックでわかりやすい被写体を選ぶ写真とは正反対の、実にしっぶーい、一見わかりにくい、でも真摯で大事に見たくて、見ていると本当にそのカッコよさがわかってくる写真たちです。
『彩宴』では、本の見開きの右側がすべて真っ黒になっています。これも恭司さんのリクエストとか。鏡のような、何かが映るような、ちょっと怖い。でも見てみたい。そんな黒。そして、判型も165mm×216mm、写真も断ち落としではなく、余白をとった控えめなサイズ。

そんな鏡というか窓のようなカメラに恭司さんが取り込んだのは、ご自身が住む渋谷の住宅の階段とか、そこにある影。店先の鏡。それらの風景は、恭司さんが毎日通る道先だったり、何度も撮っている場所だったりするそうです。どの写真も、恭司さんの世界に対する初々しい、としか言いようのない繊細な視線や、距離のとり方や、震えや覚悟やら、そのものです。もしかして、かつて世間はこういうことを「ガーリー」と呼んだのかな? でもそれって、実は女の人にはあんまり見られないタイプの純粋さな気がします。

そうそう、恭司さんは「写真を取る」、佐内さんは「写真を切る」と言います。恭司さんの「取る」はどこか「好きなモノをカメラに取り込む」というニュアンスがあるそうです。一方佐内さんは、やっぱり「切るぜ!」という6×7(ペンタックス67)で世界と対峙する感じ。そして写真を撮るときは1枚じゃなくて必ず2・3枚。でもそれ以上撮ることはほとんどないとか。こんなところにもそれぞれの独特の考え方があらわれていて面白いですね。


+ + +  追記 + + +
佐内さんは、現在09年第1弾の写真集を準備中。4月末に発売予定とか。一時はパチプロを目指したという佐内さんにもっとも近い存在である(?)「パチンコ」、それもエヴァンゲリオンのパチンコを撮った写真集になるそうです!うーん、どんな風景になるんでしょうか。

*註1 木村伊兵衛賞
「写真界の芥川賞」のようなものです。プロ・アマを問わず写真の創作・発表活動において優れた成果をあげた新人に贈られる賞。著名な写真家を数多く輩出しており、とても影響力がある賞。


*註2 チャールズ・ブコウスキー
70 年代~90年代に活動していたアメリカ、ロサンゼルスの作家。アメリカ各地を放浪した20代から、郵便局に勤めながら執筆を続けた時代を経て、作家が50 歳に入った70年代以降は郵便局をやめ、作家活動に専念。とにかく論評が困難なタイプの作家だが、その小説はほかの誰も書けないような独自の言葉を獲得し ており、ブコウスキーから多大な影響を受けている小説家も少なくない。

*註3 デレク・ジャーマン
94 年にエイズで亡くなったイギリスの映画作家。「テンペスト」「カラヴァッジオ」「ザ・ガーデン」「エドワードⅡ」など、同性愛をテーマにしたポリティカル なテーマにポエティックな映像の作品で有名。遺作の「BLUE」はエイズをテーマにした作品。自身がパートナーと住んでいたダンジェネスの庭は有名。


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彩宴 

対照 

¥4,000(税込) 

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対照 

 

限定1000部。上記「対照」のページからオンライン購入できます。

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