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ローズマリーのナイトガウン
02.02.2009
当店はありとあらゆる妄想を取り揃えておりますが、実際に購入したいというお問い合わせを頂いたことはまだございません。はて?妄想を現実にやり取りすることなんて、いったい出来るもんなのか?とお考えになる方もいらっしゃると思うのですが・・・え?いない(爆)。まあね・・・それが真っ当というものでございましょう。ただし、この世には現実の意識を超えた世界も存在するということを、アタクシの立場上(なんの立場だ)諸君にも言っておかねばなるまい。
と、初っ端から妄想探求心を挑発してみたのには理由がございます。それは今回ご紹介するのが、ホラー映画の傑作のヒロイン、ローズマリー・ウッドハウス(ミア・ファロー)だからなのです。一般的にホラーと言うと、正視できないほど残虐なスプラッターものや、振り返るのも怖くなるようなおどろおどろしいオカルトものが思い浮かびますが、文芸ホラーの中には西洋の宗教観念を下敷きに、処女性をテーマにした作品が伝統的にあって、ガーリンが愛する通説的な世界とは趣の違う「ガーリンのB面」が詰まった玉手箱だったりもするのです。もしかすると読者の中には既に「ホラーが三度の飯より好き」なんていう、エコエコアザラク(*註1)なお方もいらっしゃるかもしれませんがね。フフ。
アイラ・レヴィン(*註2)の同名小説を68年に映画化した「ローズマリーの赤ちゃん」は、サスペンスの神様ヒッチコックも名乗りを挙げたのだそうですが、まだ新進気鋭だった異才ロマン・ポランスキーに白羽の矢があたり、彼のハリウッド進出の初監督作品となりました。ミアのか細いハミングをフューチャーした虚無感あふれるタイトルロールといい、時代を感じさせるロマンチックなアートワークやヨーロッパ人監督ならではの繊細なセンスは、これってホラー?と疑ってしまうほどガーリーエッセンスが散りばめられていて、ホラーが苦手なガーリンさんも必見ですよー。
撮影が行われたのは、ジョン・レノンが射殺されたことで有名になってしまったダコタハウス。これぞマンハッタン!な風情の重厚な建物のアンティークな内部を、ふんだんに覗き見できるのも興味深いんですが、この撮影後、共にインドへ瞑想旅行に出掛けるほどミアとビートルズは親交が深かったというのもなんだか因縁な話。また撮影中に彼女は当時の夫フランク・シナトラと離婚。その一年後、今度はロマンが妊娠中の妻シャロン・テートをチャールズ・マンソン(*註3)に殺害されるという不幸に襲われます・・・。
自分自身も悲しい運命に翻弄されたユダヤ系ポーランド人のロマンは、その作品も数奇な人生を描くことを得意としております。が、過去の古傷になにか関係があるのか?彼が美少女フェチで血中ムラムラ濃度が高めだというのは一目瞭然(爆)。なので当初ローズマリー役には、清潔なお色気が売りのジェーン・フォンダか、チューズデイ・ウェルドのようなセックスシンボル女優を希望していて、ガリガリの不思議ちゃんミアは眼中になかったらしいのです。ま、結果的に不思議ちゃんが妄想に悩まされる主人公を演じたことで、物語の不思議さが増し(当たり前のようでもあるが)不朽の芸術作品を生んでしまったんだから、まったく不思議な話というのはあるもんです。
謎の多いサイドストーリーも、妄想ミシュラン5☆をつける理由ですが、原作に忠実な作品の玉手箱度をさらにアップしているのが、ミアをはじめとするキャスティングの成功とファッションが醸し出す役柄とのケミストリー。物語の前半はプレ妊婦のローズマリーが着こなす東部の良家の子女風スタイル。そして妊婦デビュー後は60’sマニアにはたまらないベビードールのオンパレード。また衣替えと共にヘアも貞淑な印象のボブから、活発なベリーショートへ変身させちゃう演出が斬新で、ローズマリーが夫に「ヴィダル・サッスーンに切ってもらったのよ」と誇らし気に語っているとおり、これは実際の撮影現場にサッスーン氏を呼んで生まれたローズマリー・カットなんだとか。ミアの骨張った小さな顔にボーイッシュなショート、そしてポキンと音を立てて折れそうなほど小柄な体にベビードールというゴールデンバランスは、頑固なロング崇拝のアタシでさえ白旗を揚げるガーリンっぷり(ミア降参よ〜)。
この作品はその時代背景ごと何から何までB面ガーリンの王道です。だからおススメしたいアイテムが多過ぎて、コレ!とひとつに絞るのがヒジョーに難しいんですが、やはりラストの赤ちゃんと初対面で、妄想が現実へと変わっていく緊張のシーンでミアが着ているブルーのナイトガウンでしょう。これは彼女が周囲に対する不審から病的に鬱になっていくマタニティーブルーの象徴でもあり、彼女の持つ無垢な心や幼さを強調したアイコンでもあります。数奇な運命の末(?)このガウンがある大富豪のコレクティブルに加わってロンドンの美術館で展示されたほど、ファンにとっても作品のマスターピース的存在なのです。
ナイトガウンと言うのは寝間着の上に羽織るモノのじゃないの?とお思いでしょうが、英語ではガウン=ドレスのことで、ここではネグリジェのことを指しています。セクシーでナンボのお国柄ですので、アメリカでナイトガウンといえば、男性から女性へ贈るギフトという地位も確立されたランジェリーの一種。なので積極的にエロを演出したスケスケものや、ツルツルと肌触りの良い素材の「夜のドリームジャンボ」へ誘うデザインがわりと主流。なはずなのですが、このローズマリーのガウンは、胸元に控えめなレース飾りが申し訳程度にあるのみの子供だましのようなシンプルさ。おまけにマタニティーブルーの象徴色とあっては、仲良く夢を追ってる場合でもないと言いたいところですが、グラマーでイケイケな夜とはまた別の、ロリータプレイには持ってこいのマニアなチョイスとも言えましょう(ホンマか)。
ここでちょっとトリビア・タイム。女子力アップの必須アイテムゆえ、当然アメリカにも多くのブランドがありますが、ガーリン読者なら知っておきたいのは、なんと言っても「ヴァニティー・フェア」ではないでしょうか。美しいデザインが往年のハリウッド女優達に愛され、映画と共に黄金期を過ごしたこのブランドは、19世紀にシルクニットの手袋製造で成功からはじまりました。20世紀初頭に事業拡大でランジェリーの製造を始め、これが3年間で大きく売り上げを伸ばすと、一般公募した同社名に変更し、アメリカの好景気と共に第二次大戦が始まるまで発展を遂げますが、大戦後は資源不足によりシルク製造の中止を余儀なくなれてしまいます。が、1948年にナイロン等の新素材も取り入れ、またもやこれが大ヒット。その後はまたシルク製造を再開し、ハリウッドでの黄金期を迎えたというわけです。その後も合併を繰り返し、アメリカ屈指のグループ企業になったのですが、残念ながら現在ではかつてのような輝きは失ってしまいました・・・。それでもナイトガウンといえば「ヴァニティー・フェア」と言われるほどヴィンテージラバーの間ではポピュラーな存在です。
ローズマリーのナイトガウンは彼女の出産が6月だったことを考えると、おそらく夏向けのコットン製ではないかと思われますが、ヴァニティー・フェアの栄華期と作品の撮影時期のタイミング的には、同社のものである可能性もあながち否定はできないところ。
悪魔達の陰謀で壊れかけていた彼女が、肝っ玉の座った母性パワーで己の恐怖を凌駕してしまう、なんだかホラーらしからぬ感動的なラストシーンに奇妙なリアリティーを与えているのは、スケスケツルツルとは違ったこの地味なナイトガウンの持つ、地に足が着いたムードのおかげだったのでしょうか。冷静に考えたら、寝起き姿でシッカリと妄想と現実の状況判断が出来ていたローズマリーは、意外に実存主義ガーリンだったのかもしれませんけれども(笑)。
*註1: 75年から79年まで「少年チャンピオン」誌に掲載された、黒魔術を使う高校生の黒井ミサを主人公にした古賀新一の人気マンガ。
*註2: 29年生まれのアメリカ人作家。24歳の時に書いた「死の接吻」がアメリカ探偵作家クラブの新人賞に輝く、その後は劇作家としても活躍。生涯、7作品しか残してない寡作だが、そのどれもが映画化されるなどクオリティーは素晴らしい。ローズマリー以降、「エクソシスト」や「オーメン」が製作され、世界中にオカルトブームを呼んだ。03年にはアメリカ探偵作家クラブの巨匠賞を受賞。07年に没。
*註3: カルト・グループ「ファミリー」の首謀者。恵まれない幼少期を過ごした後、投獄と釈放を繰り返す。67年に家出少女を集めて「ファミリー」として集団生活をはじめ、愛読書であった聖書の曲解により、次々と残忍な殺人を計画、実行していく。69年のシャロン・テート事件は、殺人を予定していた人物が引っ越した後の居住者であったポランスキー夫妻を逆恨みしての反抗だったということで全米を震撼させた凶悪犯罪。たびたびのカリフォルニア州法の改正のため、未だ死刑は免れており、現在も終身刑として服役中。
Illustration by Yuki Kitazumi
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