NAVIGATORS : taramoon
キムのスノーグローブ
12.22.2008
誰にでもひとつやふたつ、この時期になると思い出してしまう名作があるはず。子供の頃に読んだディケンズの「クリスマス・キャロル」のような・・・何かいつもと違う不思議なことが起こるんじゃ?そんなマジカルな気持ちにさせられてしまうのもクリスマスならではの風物詩。そしてウッカリ妄想と現実の間で幸せな気分になってしまうのも、クリスマスらしい正しい行いではないかと存じます。
ガーリン読者へ今年最後の妄想百貨店からお届けするのは、91年に日本公開された「シザーハンズ」です。これはご存知ティム・バートン監督とジョニーという妄想界きっての最強コンビ!が運命の出会いをし、その後、長年に渡ってタッグを組むことになる記念碑的な作品で、エドワード・シザーハンズ(ジョニー・デップ)がキム・ボッグス(ウィノナ・ライダー)というカワイコちゃんと出会い、実生活でも「ウィノナ・フォーエバー」と、あまりにも有名なタトゥを入れるほどに盛り上がりを見せた、色んな意味で記念碑的だったりもするわけですが(笑)。
わびさびを心得た独自のファンタジー様式美を確立する「妄想の裏千家」バートン監督は、たとえ世界中に知れ渡る古典作品であっても、すっかり我流にアレンジしてしまわなくては気が済まない家元体質。もはや妄想界の千利休と言っても過言ではない、現代社会に疲れた客人をおとぎ話でもてなしてくれる語りべ長者でございます(ホンマか)。
彼の描くオドロオドロしいダークな色とカラフル・ポップな色の対比は、まるで本のページを繰る時のようなワクワクする懐かしさに溢れた世界で、ご本人の風貌からは想像もつかないそのファンシーな脳ミソに、ガーリン感性を刺激されてしまうのは、決して「バートン」と「ガーリン」の語呂が似ているせいだけでは無いであろうと思われます(爆)。
物語は雪の夜、老婦人になったキムが孫にベッドサイドストーリー(おとぎ話)を語って聞かせる「語りべ」バートンらしいシーンから始まりますが、そこにチラッと写り込む暖炉の上のスノーグローブに皆様はお気づきだったでしょうか?回想部分のティーンネイジャー時代、キムの部屋にも飾ってあったガーリンな小道具、この小さな脇役に隠された秘密を今回はご紹介いたします。
スノーグローブの歴史はさだかじゃありませんが、19世紀前半のヨーロッパでペーパーウェイトとして使われていたものが原型のようです。そしてこの誰もが知っている雪降る小さな世界は、1889年のパリ万博でフランスのシンボルであるエッフェル塔と共に生まれました。フランス革命100周年を記念して建設されたエッフェル塔を「手の平サイズのガラス球に閉じ込める」ことを思いついたパリの職人のアイデアに よって、今では世界中どの観光地に行っても、必ずお土産屋さんに並んでいるほどお馴染みになりました。そしてキャラクター物やシーズナル物、シリーズ物やノベルティーに至るまで、小さな宇宙を閉じ込めたスノーグローブは、多くのロマンチストな収集家達に愛され、コレクターズアイテムへとなっていきました。
20世紀に入り、ヨーロッパで人気になったスノーグローブは大量生産され大西洋を渡って北米に上陸。1927年にペンシルバニア州に住むジョセフ・ガラジャという人物が「ガラスの球の底に水漏れを防ぐ特殊な栓」と「水をこぼさずに台座にしっかりと はめ込むための溝」を開発し特許品となり、3年後には日本の業者による製法のコピーでアメリカ国内でも広く出回ると、初期の「ガラス球型」から、50年代には西ドイツのおもちゃショーで発表された「ドーム型」も登場して「最低でも一家に2つはスノードームがある」と製造者に言わしめるほどポピュラーな存在になったのです。
この映画の舞台はアメリカが一番豊かで幸せだった50年代のフロリダ。街並や車、ハッピーの象徴のようなマイホームや登場人物のファッションと、すべてがキッチュなフィフティーズなところが、これまたガーリンのツボなんでありますが、つるんでは噂話に花を咲かせるご近所さんは家元曰く「メディアの象徴」なんだそうですよ。高度成長期、近所付き合いが生活の大半を占める郊外生活者にとって、他人の行動や持ち物はイチイチ気になるモノであったに違いなく、だからスノーグローブの急激な発展もあったのでしょうけど。
絵本のようなアートワークの中で、スノーグローブが時代に違和感無く溶け込んだ目立たぬ飾り物にも見えるのとは逆に、エドワードときたら時代錯誤なパンクファッションといい、最初から最後まで浮きっぱなし。そしてこのまったく違う二つの在り様を「主張が無いのはワリと不本意」という共通項でバートン法師は繋げてみせた。とアタクシ妄想するのです。
ポップなトレンドファッションに身を包むご近所さんの心の闇と、奇異な外見のエドワードのピュアなハートのコントラストは、きっと主張の強いモノが勝ち残る世知辛さをはかなみ、他人との比較で幸せの重さを測ることに慣れてしまったメディア社会を皮肉った裏千家ゆえの悟りなのでありましょう。
現実界に生きるアタシ達には残念ながらエドワードのように逃げ帰る城も、ファンタジーの世界で生きるという選択もなく、せいぜい妄想で折り合いをつけてゆくのが関の山。だから年末くらいは現世逸脱物語で泣きたいだけ泣き、妄想茶人のけっこうなお点前で心静かに一年分の「心のコリをデトックス」してはいかがでしょうか。
ラストシーンの窓の外に降り注ぐ雪は、エドワードからキムに宛てた年に一度のラブレター。雪が降る度、彼女は愛するエドワードが今も自分を想い続けていることを確認する。ところで実はこの雪、オープニングタイトルの「20世紀FOX」のロゴからずっと降り続けているんですよね。物語の始まる前からスクリーンに積もらせた雪。もしかすると、この世にも不思議な徒然こそ、ガラス球の中に閉じ込めた茶の湯、否、家元とっておきのスノーグローブだとしたら・・・。
キムの人生を見守り続けるスノーグローブ。その可愛い姿には似合わず、一年の締めくくりにふさわしい、わびさびガーリンな名脇役なのかもしれません。
HAPPY HOLIDAY!
Illustration by Yuki Kitazumi
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