フーバー家のワーゲンバス

08.11.2008

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家族と一緒に過ごす夏休み。子供の頃は当たり前だったことが遠く忘れ去られた思い出に変わってしまったのはいつの日からだったのか。夏の昼下がり、ボーッとした頭でそんなおセンチ気分を楽しむのもガーリン的な夏休みの過ごし方。冷たい飲み物を片手にアルバムを広げ、写真の中で笑う幼い自分の無邪気さにガーリーのルーツを発見するのもオツなものです。背景は夏の定番、太陽が燦々と降り注ぐビーチだったり、空気の澄み渡った森林だったりするのかもしれませんが、そこに写る家族の顔こそがハッピーの要。

今回お届けするガーリンさんは「リトル・ミス・サンシャインのフーバー家。妄想百貨店開店以来の団体ガーリン御一行様でございます。2006年に小劇場向けのインディー作品として上映され、ユースカルチャーの絶大な支持を受けて世界配給へ。そして翌年にはアカデミー賞受賞作品になってしまったほどの影響力を持った要因のひとつには、もちろん末娘のオリーブちゃん(アビゲイル・ブレスリン)の存在があります。ガリ勉メガネをかけたちょっと太めのお世辞にも美人とは言えないけれどピュアでスイートな女の子。自分の外見にまったく不安を持たず(あの年で持つのもどうかと思うが)美少女コンテストでウィナーになることを夢みる羨ましいほどの天然ぶりは、ついつい外見ばかりを気にしてしまうファッションヴィクテムなガーリンさんに一撃を与えてくれたんではないでしょうか。人間、見かけじゃないよ!そこも大事だけどさ(どっちだ)。心です(笑)。

チャーミングなこの一家に華を添えているのがフォルクスワーゲン社製のマイクロバス(通称レイトバス)。作品中に使用されているのは、1967年に登場し79年までの12年間、3回に渡ってモデルチェンジを繰り返して来たT2(タイプ2)と呼ばれる第二世代(現在は第五世代)です。T2はフォルクスワーゲン発祥の地ドイツでBulli(ブリ:ブルドックの意)と呼ばれて専門家やコレクター達に長く愛され続けているモデルで、その愛され方は半世紀以上経った今でも変わることがありません。新型T2の登場によって前身であるT1が中古で手に入れやすくなっていたこともあって、60年代後半のヒッピームーブメントには車体をキャンバスに見立てて派手なサイケやピースマークなどにペイントされたものが大流行。これが現在に続くワーゲンバスのイメージの原点のひとつとなっています

そしてまんまとそのフリーダムなイメージにやられてしまい、レイトバスに恋い焦がれているオンナがこのアタシ。その前に免許が無いという致命傷がありますが(苦笑)自分で運転するしないを置いておいても、こんなに愛らしい乗り物は他に類を見ないと思うのです。ハワイに住んでいた時は、それこそ数えきれないほどのレイトバスを見かけました。イージーで奔放な生き方を好むヒッピー達にとって南国暮らしというのは天国のようなもの。ハワイのユルいノリにこんなにピッタリな乗り物は、アタシの知る限り他にカヌーとサーフボードくらいです。愛好家の絶えないレイトバスが実際は壊れやすく、修理に手がかかるというのも広く知られておりますが、やっぱりガーリンなハートを撃ち抜かれるようなルックスには弱いのです。心も大切だけど!(笑)。

このフォルクスワーゲン社の歴史を紐解いてみると、ナチス政権下の1937年に設立されてから1960年までは「フォルクスワーゲン法」という法律まで制定され、ガッチリ守られたお堅い国営企業で、第二次世界大戦が始まると軍需生産に移行し、強制労働者や戦争捕虜、のちにはアウシュヴィッツ収容所の収容者が送り込まれ、過酷な労働を強いられ死に至る者も・・・という悲しい時代がありました。フォルクスワーゲン(Volkswagen)の意味はドイツ語で「国民の車」。言ってみれば「People's Car 」と言うわけで、とっても国営っぽい名付け方とも思える反面、これぞヒッピー・カー!という印象も受けます。60年代に入ってからは民間企業となり、その後すぐに当時の理不尽な世界に「ラブ&ピース」を叫ぶ若者達の自由な表現の乗り物となったのも、なんだか偶然ではないような・・・ハッピーなイメージだけで受け止めていたレイトバスの歴史にこんな1ページがあったというのはファンとして非常に感慨深い。

レイトバスに乗り込んで旅を続けるフーバー家の個性豊かな人々はオリーブちゃんを除いて、大なり小なり心に傷を抱えたオトナ達です。ヒッピーの生き残りを気取っているが、本当はただの怠け者なんじゃねーか?と思わせるいい加減を絵に描いたような祖父(アラン・アーキン)、成功セミナーを主催し、人間は勝者と敗者の二極しか存在しないと信じ込み、現実味の無い一攫千金を夢みる父(グレッグ・キニア)、壊れかけた家族をまとめることに必死だが、既に疲れが隠せなくなっている母(トニ・コレット)、誰とも口を聞かないことで自分を主張することしか出来ない反抗期の兄(ポール・ダノ)、そして恋人と仕事を同時に失って自殺未遂、絶望状態真っただ中にあるゲイの伯父(スティーブ・キャレル)。

こんなポンコツ家族が彼女の夢を叶えるためにポンコツのレイトバスで、美少女コンテストの決戦大会が行われるカリフォルニアへ向かったのは、自分勝手で協調性のない彼らの唯一の共通項が、オリーブちゃんを「愛している」ということだったから。

世の中には「愛されキャラ」なんていう黙ってても万人ウケの良い得なタイプがいるように言われておりますが、アタクシが妄想するに「万人に愛される」とゆーのは「万人を愛する」ことが出来る人だけが持てる特別な才能なんじゃないかと思うのです。分け隔てなくとか、差別は良くないとか、「汝、隣人を愛せよ」的な一般常識マナーを超えたところで、関わった相手、もしくは関わらなくてもそこにいる相手をシンプルに愛するというのは簡単なことでありません。それをヤスヤスとやってのけるのは、おそらくお犬様くらいしかいないでしょう(笑)。そしてオリーブちゃんというのはコドモというのを割り引いても、愛されること愛することにまったく疑いの無い愛玩動物的な才能を持った女子だから愛されるのだと思うのです。

だから彼女をそのまんまコピーせよ。というのは、ガーリー評論家としてあまりにも無責任なアドバイスなのは承知の助。大人のオンナともなれば人生イロイロ。人との出会いもイロイロです。傷つけられて傷ついて人は成長するのでしょうが、その過程でシンプルな愛情機能がポンコツになってしまうこともある。だけど今の心の傷はアナタ次第で長く愛され続けるための大きな武器にもなるのです。レイトバスだって愛情機能だって同じこと。大切なものは壊れても壊れても手をかけてメンテナンスしなくちゃいけません。フーバー家の人々は旅に出て大切なものに出会いましたが、アルバムを開いてあの頃の自分の笑顔に出会うというガーリン的行動もラブ&ピースを見つける旅だったりするのかもしれません。


Illustration by Yuki Kitazumi
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フォルクスワーゲンバス Type 2 

Gene Berg 

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60年代より、フォルクスワーゲンのアフターマーケットビジネスを行って来た、米国のGene Berg社と提携するGene Bergジャパンでは、パーツ以外にもT2の中古販売などをしています。運が良ければ夢の一台に出会えるかも。

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