ホリーの黒眼鏡

06.30.2008

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オープニングはまだ薄暗い早朝のNY五番街。タクシーから降り立つジヴァンシーのロングドレスに黒眼鏡という出で立ちのオンナ。紙コップのコーヒーをすすりながらティファニーのウィンドウを覗き込み、ペストリーを頬張るその姿はチャーミングでガーリンならずとも思わず引き込まれてしまうシーン・・・。

今回お届けするのは言わずもがな「ティファニーで朝食を」 の主人公、ホリー・ゴライトリーでございます。お恥ずかしながら、10代の頃に妄想した「アタシが思うニューヨーク・シティー」がすべて詰まっていた作品がコレであり、NYCに住む女子ってのは皆こぞって、ホリーのように洗練とワイルドの中間地点でバランスよく生きている世界中で最も自立したオンナ種なのだろうと思っておりました。

この流れは、Hitomiちゃんも取り上げていた現代のNYC的アイコン「セックス・アンド・ザ・シティー」 のキャリー・ブラッドショウに引き継がれているわけですが、物語の背景は50〜60年代前半。ウーマンリブのお膝元である(あの)アメリカでさえ、男女関係には保守的な考え方だった時代に突如として登場した、ホリーのちっとも悪びれぬ奔放ぶりは男と女の伝統的な役割分担を押し付けられていた人々には衝撃であり、さぞかし魅力的な都会のオンナのニューアイコンとして迎えられたであろうことが妄想できます。
 
そもそもお日様も昇り切ってない朝靄の中で黒眼鏡をかけていることからして異端です(笑)。しかしそれこそが常識の枠の中で生息していない彼女らしさの象徴でもあり、だからこの作品の中の黒眼鏡はホリーの生き方とは切っても切れないアイテムでもある。

思わず「黒眼鏡」と古めかしい名称で呼びたくなるクラッシーなこのサングラスは「レイバン」 のウェイファーラーというモデル。英語で光を遮るという意味の「レイバン」は、ご存知のようにアメリカ空軍もオフィシャルに採用したアビエイターなど様々な歴史的名品を持つ老舗中の老舗。アメリカのレンズメーカー、ボシュロム社がサングラス専門のブランドとして1937年に立ち上げたのが始まりです。

80年代にはそのクールなファッション性がミュージシャンにウケてロックスターのアイコンとして一世を風靡したウェイファーラーでしたが、爆発的な人気だった のが災いしたのか廃れるのも早く、その後は一時発売が中止されファッションの一線から忘れ去られていたモデルでありました。ところがこの度、バック・トゥ・80'sの追い風を受けて(またですか?笑)2007年春夏にオリジナルの復刻版が堂々の再登場。昨年はお洒落セレブやモード関係者中心に流行っていましたが、カラーフレームのバリエーションも増えてきて、今年あたりはもう少し大きなブームが起きそうな予感がいたします。

ウェイファーラーが初めて発表されたのは1952年。発売当時も相当な人気だったそうで、かのマリリン・モンローも顧客名簿に名を連ねていたらしい。そして当時、既に文壇の若き天才と騒がれ、社交界でも大の人気者だったトルーマン・カポーティーがこの原作を書き上げたのは映画化される3年前の58年のこと。モード誌の「ハーパース・バザー」が掲載を予定してのものだったそうですが、主人公の行動や登場人物の言動が破廉恥だと言うことで(そういう時代だったのね)広告主のティファニーからクレームが来ることを恐れた編集長が急遽掲載を却下。結局、文芸誌の「エスクァイア」が名乗りを上げ、これが新し物好きな批評家達に大当たり。激賞する書評がたくさん出たため、その号は空前絶後の売り上げを得ることになり、掲載を見送った「ハーパース・バザー」には痛い結果となったという曰く付きのお騒がせストーリーだったのです。

カポーティー本人は映画化に当たってマリリン・モンローを主役に望んだというのも、ホリーを男達を翻弄するセクシーなアイコンとして描いた作家の真意があったからこそ。ま、だから時代背景も含めて「ハーパース・バザー」の心配も理解出来ると言えば理解は出来るわけですが(笑)結果的に映画版の主役をオード リー・ヘップバーンが演じたことで、奔放でセクシーなホリー・ゴライトリーに青っぽい固さとゆーか、神経質とも言える一種の生真面目さが加わって、よりガーリーな作品になったのはガーリンの幸福でありました。

その読者を魅了したカポーティーの素敵な原作の中で「強い斜視のため度の入った黒眼鏡をかけている」と、ホリーにとって黒眼鏡は生活の必須アイテムとして描かれております。なので「朝靄の中の黒眼鏡」はウィンドウを覗くのに必要だからかけていたのではないか?と言うことになる(そう言えば図書館で調べモノを する時にもかけていたっけ)。ですが、視力補助のために黒レンズの眼鏡を選ぶこと自体が異端ではないのか(まだ言う)。いったいここまで黒眼鏡にこだわる効能とはなんぞや?と考えてみた。

ガーリンの皆様にとってはサングラスはファッションの一部であり、大切なUV対策のアイテムでもあるはずです。もちろん50年前の話とはいえ、ホリーにだってチョイスの理由にそういうこともあったでしょうが、サングラスの存在意義のひとつは自分と外を簡単に遮断出来るというメリットであり、それは古今東西、世に顔が知れ渡っているセレブ達が外出時に愛用し続けていることを見ても明らかです。だから自立したオンナを気取る彼女が傷つきやすい自分を外から守るために黒眼鏡を愛用していたと考えるのは、けっこう正しい妄想じゃないかと思うのです。時に冷たい大都会からキッパリと自分自身を遮断するため、そしておせっかいな大人達に本心を悟られないための便利な飛び道具?(笑)。感情をコントロールして真剣な恋を拒み、束縛から一番遠いところで生きようとしているホリー。名前を付けない飼い猫も、名刺に印刷された「トラヴェリング(旅行中)」の文字もそんな彼女の自由な精神の宣言で、これらもまた黒眼鏡に通じるダイアローグに違いありません。

都会の処世術を身に着けて懸命に背伸びをしていても、本音では自分が一体何者であるのかさえわからないと思っているホリーは、行く先の見えない所在なさから奔放に振る舞うことでその葛藤から逃げることが出来る。実を言えば彼女にとって黒眼鏡をかけることは、唯一、誰にも邪魔されない自分だけの静寂の中に閉じこもることが可能な、まるで朝靄の中、ティファニーのショーウィンドウを覗きながら朝食を食べているような、とてつもなく気分を良くさせてくれるガーリン的妄想行動だったんじゃないでしょうか。


Illustration by Yuki Kitazumi

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ウェイファーラー 

Ray-ban 

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オフィシャルサイトではストアロケーションの情報のみで販売されていません。ネットショップでもたくさん販売されておりますが、やはり試着して購入することをおススメしておきます。

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