NAVIGATORS : taramoon
マーゴのポロワンピース
06.09.2008
マーゴ・テネンバウム。この一度聞いたら忘れそうにないラストネームを持つのは実在する人物の名前なんだそうですが、今回ご紹介したいのは現代のJ.D.サリンジャー(*註1)と呼ばれる当店バイヤーお気に入りの映像作家、ウェス・アンダーソン監督の「ザ・ロイヤル・テネンバウムス」に登場するヘンテコリンなガーリンさん(上手いこと言った)。数あるカルト・キャラクターの中でも群を抜いた変わり者であり、正統派女優に属するグウィネス・パルトロウの王道キャリアにオフビートな風穴を空けた異質な存在です。
マーゴは兄のチェス(ベン・スティーラー)、弟のリッチー(ルーク・ウィルソン)と共に神童と謳われた過去を持つテネンバウム家の養女。12歳にして劇作家としてデビューを果たし(その後キャリアは下降)、養父ロイヤル(ジーン・ハックマン)の一言に傷つけられた少女の頃から、世の中すべてに心を閉ざしたまま今に至る暗いヒト。よく言えばフランス風アンニュイでクールなオンナ。ま、悪く言えばへそ曲がり(笑)。
そして作品の魅力は彼女のちょっと変わったファッションポリシーにもあり。ふたりの兄弟達と同様にスポーツウェアをデイリーなユニフォームにしているアイデアには、目からウロコが落ちたファッショニスタの方もけっこういるんじゃないかと妄想いたしますが、彼女が愛用しているのは「ラコステ」のポロワンピース。で、その着こなしもオフビート。
「ラコステ」は、1930年代にテニスプレイヤーとして活躍していたルネ・ラコステ氏によって創始されました。粘り強いプレイを得意とした彼を周囲が「ワニ」と呼んだことから、友人が描いたクロコダイルのイラストを持ち物に刺繍してトレードマークとしたのがあの有名なワンポイントの由来です。汗を掻いてもサラッとしてる「鹿の子」素材を発明し、ポロシャツの原型を作ったのも、ルネが実際にプレイヤーであったからこそ出来た質実剛健な発想でした。一見ファッションとは無縁に見えるポロシャツですが、フランス上流階級出身のルネはココ・シャネルとも大の仲良しだったそうなので、もしかしてポロワンピは、オシャレな親友にインスパイアされた由緒正しいガーリーアイテムだったりするのでしょうか。
その後は米国のIZOD社のライセンス契約により、世界中の人々に「ワニ」のマークは愛され、ポロシャツの立て襟がトレンドとして大ブレイクした80年代を経て、今でもコレクターの間でヴィンテージのワニ達は根強い人気を持ち続けています。06年からはブランドの再生をはかって、フランス人のクリストフ・ルメール氏をクリエイティブ・ディレクターに起用し、NYコレクションへ参加。最近のストリートスナップでは「ワニ」アイテムを取り入れたファッションエディターの姿もあったりと、従来のスポーツブランドの枠を越えた躍進ぶりは、まさに屈強なクロコダイルの血統を感じさせてくれます。
そんな不滅アイテムをガーリン仕様にしたポロワンピは、ポロシャツの「さわやか」イメージを引き継いだ清潔感のあるお色気が信条。なので「ティーンエイジャーから(せいぜい)20代前半くらいの女子が着用することで、本来の威力を発揮する衣服」との認識が長きに渡りポピュラーだったと思われます。が、それを34歳のいいオトナ、マーゴが生涯ヘヴィーローテーションを決め込んでいる(ように見える)ことで「やはりファッションにルールは無いのだ 」と、シャネル女史が訴え続けていたことを我々も再確認させられたわけです(ホンマか)。
いわゆる健康的な環境で育った女子であれば「コーディネイトやヘアメイクはTPOに合わせて」というオンナの嗜みとか、「その日の装いを気分で変える」という年頃のお嬢さんらしい行為とか、「一週間の着回しプラン」なんていう女子ならではの賢い被服術を持っているのは当たり前。でも人類学者の母親エセル (アンジェリカ・ヒューストン)によって、半ば実験台として育てられたテネンバウム家の紅一点に、そんな乙女チックな感性が備わなかったのは幸いだったと言えましょう。
己の自閉症と共に彼女は、顎のラインで切りそろえられたブロンドボブ、サイドに留めたピンクのヘアクリップ、ポロワンピと相性抜群のペニーローファーというプレッピースタイルを22年もの間ひたすら守り続けている。なんという頑固!なんという偏屈!そしてこれだけで終わらず、フェンディーの毛皮とエルメスのバーキンという熟女の二大定番と、マーゴのイメージソースになっている「堕落の女神・ニコ(*註1)」の真っ黒に縁取られたアイラインも採用し、正当派ガーリースタイルと不良熟女を絶妙にミスマッチさせているのが、まさにウェスのセンスの見せどころだったりしてるわけですねぇ。
この外見に表現されたマーゴの頑固一徹な姿は、まさに彼女がワニの「ラコステ」を着こなすのに相応しい人物であるのを示すと同時に、創造主ウェスが趣味のよい小道具を使って、彼女の相反する「大人と子供」「天使と悪魔」「少女と毒婦」という複雑な二面性を語っているように思えます。で、わりとコレ、ウェス自身のトラウマがマーゴ像を創り出しているんじゃないか?と妄想してしまうんだけど(笑)。それは他の作品の中でも彼が繰り返し描いている「繊細な男心を傷つける図太い神経の女子への憤り」を意味不明な行動を繰り返すマーゴの変わり者ぶりに感じるから。
過去のインタビューで、この作品中のファッションは「70年代のスポーツウェアを意識した」と、ウェスは語っているんですが、神経症の主役達にさわやかなスポーツウェアを着せることで、彼らのアンチヘルシーな精神状態が際立つというわけか。この「不健康な精神は健全なファッションにも宿る」と言ってんのか?とすら思えるへそ曲がり技は、まるでアタクシが提唱するガーリー哲学「ガーリーに毒はつきもの、毒を吐くのはガーリーの特権」というガーリー相対性理論を裏付けてくれるようで好感が持てます。「男子のトラウマティックな生態」から生まれた毒女マーゴは、ガーリー研究における興味深い対象であり、ルールを超えたカルト・ガーリンだったりするわけです。
*註1:J.D.サ リンジャー・・・1919年、NYマンハッタン生まれ。著書に「ライ麦畑でつかまえて」や「フラニーとゾーイー」など、子供から大人になる過程で若者が感 じる不条理の巧みな描写が評価され、カリスマ的な人気を持つ20世紀のアメリカ文学を代表する作家の一人。その私生活は謎に包まれている。
*註2: ニコ・・・60年代後半、ルー・リードを中心に結成され、前衛的なサウンドと人間の暗部を見つめた詩世界を持ち、後のアーティストに大きな影響を与えたアメリカンロックバンド「ヴェルヴェットアンダーグラウンド」の初期メンバー。アンディー・ウォホールのプロデュースにより、ファクトリーに出入りしていた「ニコ」をヴォーカルとして加 入させるが、ファーストアルバムをリリースしたのみでバンドを去っている。marica Mさんのコラムでも詳しく紹介されてます。
Illustration by Yuki Kitazumi
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75周年のアニバーサリーを迎える今年の春夏コレクションで、クリエイティブディレクターのルメールが選んだのはクラッシック回帰。ドット柄のポロワンピをマリン風に着るのもガーリン!
